“ララバイ”

拝啓 深秋の候

秋も深まり、すっかり日足が短くなりましたが、皆様には変わらずご活躍のことと存じます。

澄み切った夜空に、静かに輝く月が、私を優しく眠りへと誘ってくれる“ララバイ”(子守唄)です。

日本語の“ララバイ”は、英語の“lullaby”からきたとされています。英語のlullabyは“lull”と“bye”という2つの言葉が組み合わさってできたと言われており、「あやし、なだめ」「神が貴方と共にいますように」という思いが込められているようです。

16世紀中頃にできた言葉で、その語源は諸説あるそうですが、今回は最も古そうなヘブライ語に遡るものについてお話しいたします。

お話は、旧約聖書のアダムとイブまで遡ります。

旧約聖書の創世記によると、神は6日で世界を創り、7日目を安息日としました。

この時、神は土から、アダムを創りました。アダムだけでは寂しいのではと思い、アダムの肋骨からイブを創ったというお話しは有名ですが、実は、アダムにはイブの前に前妻がいたことをご存知でしょうか?この時点で既にアダムはバツイチだったのです。

実は、神は最初に、同じ土から平等に男女一対を創りました。それが、“アダム”と“リリス”です。

しかし、アダムの最初の妻リリスは、妖艶で奔放な女性でした。

好奇心豊かで積極的なリリスにとって、何事にも保守的だったアダムは物足りなかったようです。妊娠していたにも関わらず、今で言えば性格の不一致ということでアダムとはすぐに離婚して楽園を去り、刺激的なサタンの元へ行ってしまいます。

この時、リリスのお腹に宿っていたアダムとの子供は、のちに修道士達を惑わすリリムとなります。夜な夜な男性の夢に現れて悪戯をする最強の誘惑者“サキュパス”と同一視される淫魔です。

世の男性たちは思春期にリリムに悩まされた方も多いはずです。

リリスがアダムの元を去ったのち、神は、アダムとリリスを同じ土から創り対等な関係にしたことを反省して、「今度は従順な女性を」と考え、アダムの肋骨から“イブ”を創ったというのです。・・・。

リリスの知名度が無いのは、キリスト教にとってはあまり好ましく無いキャラクターだからかもしれません。旧約聖書のイザヤ書の中にちょっと出てくるくらいです。

しばらくの間、アダムとイブはエデンの園で幸せに暮らしていましたが、イブが蛇に唆されて、神から食べることを禁じられていた「禁断の果実」を食べてしまいます。そしてアダムにもその実を食べさせます。

押し寄せてきた“羞恥心”から局部を隠すようになり、神は禁断の果実を食べてことに気づきます。

神を裏切ったアダムとイブは何不自由なく暮らしていた楽園を追放されてしまいます。

しかし、本当に神を怒らせてしまったのは、禁断の果実を食べたことだけではありませんでした。神が本当に怒ったのは2人の態度でした。

「なぜ、禁断の果実を食べたのか?」という神の質問に対し、アダムは「イブに唆されたから」と言い、イブは「蛇に唆されたから」と言い訳をいました。人類最初の責任転嫁の連鎖でした。

反省するでもなく責任を他人に転嫁することしか考えていない2人に神の怒りは頂点に達し、楽園からの追放だけでなく、永遠の命を取り上げ、アダムには辛い肉体労働を、イブには出産という産みの苦しみを課しました。

そして、天使によってアダムとイブは楽園を追われます。

因みに、楽園追放という題の絵画は、だいたいイブが前を歩いているような気がします。女性の方が現実を受け入れるのが早いのかも知れませんね。

さあ、ここからが疑問です。何故、蛇はイブに神を裏切らせたのでしょうか?

先程の禁断の果実に手をかけているアダムとイブの絵ですが、蛇の姿が何だか変です。下半身が蛇、上半身が女性のような異形な姿で描かれています。

実はこの蛇、アダムの前妻リリスなのです。自分からアダムの元を去ったのに、何故、アダムのことを陥れなければならなかったのか?

実はリリスが復讐したかったのはアダムとイブではなく、神だったのです。

アダムの元を去ったリリスは、サタンと関係を結び多くの子供を産みますが、リリスの裏切りに激怒した神が」、リリスの下半身を蛇に変え、リリスの子供たちには呪いをかけて殺してしまったのです。

変わり果てた自分の子供たちの姿を見て悲しんだリリスは命を絶ってしまいましたが、そのことを憐れんだ天使が、こっそりリリスを蘇らせていたのです。

蘇ったリリスは、同時にある力を身につけていました。

アダムとイブの子供である人間の子供の運命を左右することが出来るというものです。

そんなリリスを恐れて、ユダヤ人たちが子供を守るために唱えたヘブライ語の呪文“Lilith Abi”「リリスよ去れ」を語源とする“ララバイ”が子守唄の原点と言われています。

最も罪深いのは、いったい誰なのでしょうか?・・・。

秋の夜長に“ララバイ”(子守唄)に関するお話でした。

落ち葉舞い散る深秋の候、体調を崩されませぬようご自愛ください。

敬具